法律エキスパート・システムの開発研究にとって理論的に重要な問題は、単純な事案の場合のみならず、判断の分かれる難解な事案においてこそ決定的な役割を果たしていると考えられる、解釈という人間の知的営為の在り方を根底的に分析し、その成果をエキスパート・システムの内に盛り込む可能性について探究することである。本研究は、この問題関心から、平成5年度において、解釈に関して多くの理論的洞察を提供している哲学的解釈学やそれと関連する他の解釈の一般理論、および法学の領域における法解釈の理論の整理・検討を通じて、法解釈の論理的構造の分析を行なった。そこでは、解釈における先行了解、循環、理論負荷性といった特徴的な現象の分析によって法解釈の在り方を一般的に明確にすると共に、その一方で、幾つかの判例を素材としながら、それらの分析を検証しつつ、特に具体的事案の中での法解釈における法律家の独特の推論様式を分析し、その深層論理とでも言うべきものの把握に努めた。しかしながら、法律家の推論が一定のルールとその背景に存する種々の価値的考慮との間の複雑なフィードバックの内でなされることや、その推論の要が或る種の支点言明の固定とそれに収斂する判断の合理的整序に存することは明らかとなったが、それらのプロセスの論理的機序についてはまだ十分に明確ではない。今後さらに、この問題を一定の論理学的道具立てにより形式的に表現するための方法を開拓して解釈の論理の明確化をめざすと共に、それをコンピュータ・プログラムに構成することが課題となろう。
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