研究概要 |
本年度は基礎研究およびサーベイを中心に次の具体的課題を設定して研究を行なった. (1)法律知識のための知識構造の表現法 (2)類推や仮説推論といった新しい非演繹的推論機構の研究 (3)法的正当性を保証する推論機構の研究 まず(1)の課題に対しては,法律文の論理に基づく簡潔で意味論的にも明快な表現法について型理論に基づく高階論理の枠組みで考察した.特に,法的知識表現言語のための概念知識や概念階層などが理論的に明確に記述可能な知識表現言語について理論的性質を明らかにした.また,知識間の類似性や知識の一般化,事例や判例からの一般化知識の獲得法などについて考察し,基本的な枠組みを与えた. (2)の課題に対しては,すでに得られている判例や事例などを援用して判決予測を行なう類推判決システムのための類推機構について考察した.高階の知識を用いた類推や仮説推論の形式化を行い,その法的推論への応用可能性について理論的な考察を行った.また,判決文や条文の解釈,法律の適用例と推論構造などの解析を通して,条文の表現の抽象度,どの程度詳しく表現するか,因果関係や解釈をどうするか,などの新しい問題も考察した.これまで実装している類推定理証明システムや様相論理に基づく推論システムを法的類推に適用可能なように拡張・修正して行くことも検討した. (3)の推論方式としては,推論機構の実現で核となる単一化アルゴリズムや一般化知識獲得のための一般化アルゴリズムが重要である.高階や様相,概念階層を導入した場合のこれらの問題について考察した.また,推論システムも,完全自動化を目指す立場や対話型などいろいろな方式が考えられる.さらに,問い合わせ処理や推論過程の説明機構などの問題などがある.これらの問題について理論的考察を行った. このように本年度は高階論理,様相論理に基づく法的推論システムの概要と問題点とを検討し,本格的なシステム実現に向けての基本的な知見を得ることができた.
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