研究概要 |
本研究は,ファンデアワールスで結合界面を利用した単結晶ヘテロエピタキシャル成長における初期過程を,走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて解明することを目的としている。我々は層状物質の劈開面の様に,活性なダングリングボンドが現れないファンデアワールス表面上に,別の層状物質をヘテロ成長させるときには,50%以上の格子不整合があっても良好なエピタキシャルが可能であることを明らかにしてきた。このような系では極めて急峻なファンデアワールス界面を介して,格子間隔の異なる2種の物質が接した構造が実現できるため,走査トンネル顕微鏡像には,モアレタイプの変調構造が明瞭に現れる。モアレ変調構造には,エピタキシャル超薄膜の格子間隔の微小なずれや,基板結晶に対する結晶軸の微小な回転が著しく強調されて現れるので,これを利用することにより,エピタキシャル超薄膜中の局所歪みに関する知見を得ることができる。本研究では,2H-MoS_2基板上に,成長温度を種々に変えてMoSe_2超薄膜をエピタキシャル成長させ,STMの変調構造の観測を行った。その結果,温度520℃で成長したエピタキシャルでは,0.71%の格子間隔の局所的変動が15.8%に,また,0.24°の結晶軸の局所的回転が6°にそれぞれ強調されてモアレ変調に見えることが判明した。モデル計算との比較により,上述のモアレ変調構造を利用した評価法を用いれば,エピタキシャル膜中の格子間隔並びに結晶軸の,約10nmごとの超局所的変動を,それぞれ0.1%,0.01°の精度で調べられることが明らかになった。
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