研究概要 |
半導体結晶成長に現れる基本的なガス表面反応を分子論的な立場から動的に解明する事を目的として研究を行った。表面に吸着した金属原子と酸素分子の反応断面積を分子線の手法により求め、表面電子状態が表面反応に如何なる役割を演じているかを調べた。金属原子としては、今までのCs,Kに加えて、Na,及びLiを取り上げた。Ge(100),Si(100)上に上記のアルカリ原子を1層吸着させて、酸素分子の初期吸着確率Soを求めた。結果を要約すると、 K,CsではSo=1.0,他方、Li,NaではSo=0.5となった。このような違いが発生する理由を以下のように考えた。K,CsはSi(100),Ge(100)では、最外殻電子をSiのダイマー軌道に与えて自らはイオン的に吸着する。1ML程度の高い被覆率に於いては、一旦イオン化した電子を自らの位置に取り戻す用になり、いわゆる金属的な相が実現される。他方、Liはイオン化ポテンシャルは表面の仕事関数よりも大きいため、イオン化は起こらない。それよりも、表面最外層のSiダングリングボンドと共有的に結合し、フェルミ準位付近の電子密度を低下する。これは、1層程度以上の吸着に於いても事態は変わらず、Liはバルクに進入しながらでも共有結合を作る。Naの場合もイオン化ポテンシャルはフェルミ準位より大きく、Liと同じ事が起こっていると想像される。要約すると、表面電子がフェルミ準位付近に高密度に蓄積されると、飛来する酸素分子は速やかにその電子を受取り、負イオン状態になる。それにより酸素解離吸着が進行する。他方、Li,Naが吸着した表面では、フェルミ準位付近の電子密度が低く、電子移動が速やかに進行しない。そのため、初期の酸素吸着確率がCs,Kよりも低下すると判断される。
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