フラクタルな相図を生じるような相転移現象が現実の物質で起きる可能性を探るために、二つの物理系に対応する簡単なモデルの相転移を解析して、次の成果を得た。 1.銅の(110)表面などに酸素を吸着させたときに見られるストライプ構造を記述するためのモデルとして、吸着原子列どうしに短距離の引力と長距離の斥力が働く格子気体モデルを考察した。吸着の化学ポテンシャルと引力の強さを変化させると基底状態の構造は様々に変化する。斥力が距離とともに指数関数的に減少する場合には、これら二つのパラメタを座標軸とする相図は、ウプシロン点と呼ばれる「多重臨界点」を含むフラクタルな構造である、ということを解析的に示すことができた。 また、斥力が距離の逆2乗に比例して減少するモデルの相図を、数値計算により近似的に調べたところ、銅の(110)表面のストライプ構造に関する実験データを定性的に再現する結果が得られた。近似計算なので決定的なことはいえないが、この相図にもウプシロン点が含まれているらしい。この結果は、ストライプ構造を示す適当な表面系において、フラクタルな相図を生むウプシロン点に関連した現象を観測できる可能性を示唆しているのかも知れない。 2.ヘリカル磁性体を記述する最も簡単なモデルとして、最隣接と第2隣接スピン間の相互作用をもつXYモデルを考え、XY平面内に磁場をかけたときの基底状態の相転移を、最小化固有値法を使って数値的に調べた。これまでのところウプシロン点の存在を示すデータは得られていないが、通常の1次相転移や2次相転移のほかに、悪魔の階段を伴う整合・不整合相転移が存在することが判明した。新しいタイプの多重臨界点が存在する可能性もありそうだ。
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