我々は、局所密度近似(LDA)に替る密度勾配展開法では自己相互作用の問題が解決されていないため、電子の有効ポテンシャルの評価、そしてその結果としての一電子スペクトル(バンド構造)の計算においてLDAと同じ問題が生じることを指摘した。ところが、Beckeにより交換・相関エネルギー密度として孤立原子に対して正しい漸近的振舞いをもつ表式が提案されていることがわかったので、今年度はまずこの方法の検討を行った。その結果、Beckeの汎関数は、孤立原子に対してKohn-Sham方程式に現れる有効ポテンシャルの正しい漸近形を与えないことがわかった。そのため、孤立原子のイオン化エネルギーを最高被占準位の軌道エネルギーで評価しようとしてもLDAによる計算とほとんど同じ結果しか得られないことが示された。有効ポテンシャルの正しい漸近形ということを第一義的に考えると、自己相互作用補正された局所密度近似のほかにGennarsson and Jones(GJ)により提案された方法が候補として挙がってくる。この方法は自己無撞着な計算で色々テストされた例が少ないので、これが固体の電子状態の計算プログラムに取り込めるかどうかの検討を行ってみることにした。しかしよく調べてみると、GJの理論は有効ポテンシャルの漸近形について正しい結果の丁度1/2の結果を与えることが確かめられた。その結果、最高被占準位の軌道エネルギーはLDAの結果に比べ10%ほど深くなる程度である。しかしながらこの研究により、球対称ポテンシャルの場合にGJの方法を適用する手法を修得できたので、これをLMTO-ASA法のプログラムに利用することができる。そこで遷移金属単体の電子状態について調べてみたいと考えている。
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