本年度はまず、宇宙の一次相転移のときに時空構造の変化にともなって量子的に生成する重力波に対する知見を得るための第一歩として、多次元トンネル系を場の理論的手法で記述し、トンネル場と相互作用するスカラー場の量子的な振る舞いを考察した。具体的には、平担な時空において二つのスカラー場φとσを用意し、φを量子トンネル効果を起こす場、σをφに依存した質量項をもつ場とした。そして、φの相転移が薄壁近似で記述される場合を考え、σの質量としてはφの壁上だけでゼロでない値をとる、δ関数型の質量項を与えた。その結果、相転移によってφ場の泡が生成すると、泡の外ではσの量子状態は真空と一致するが、泡内ではエネルギー運動量テンソルが非自明な振る舞いをすることがわかり、泡内で場の量子的励起が起こることが示唆された。こうして得られたエネルギーは輻射と同様の振る舞いを示し、そのときの時空構造は開いた宇宙と同じであるため、これを熱い開いた宇宙の量子的生成と解釈することも可能である。また、この手法は重力の効果を取り入れることによって量子的重力波の生成の問題に応用可能であり、この研究は現在進行中である。 次に、位相的欠陥から放出される重力波に関する基礎的かつ重要な問題として、コスミックストリングループの運動に関する南部後藤作用関数の妥当性と数値計算によって検証した。ここでは、アーベリアンヒッグスモデルに基づいてストリングループをゲージ場とヒッグス場によって直接構成し、場の方程式を数値的に解くことによってループの進化を追った。その結果、南部後藤作用から予想されるループの進化の描像は、ループの半径がストリングコアと同程度に小さくなるまで正しいことがわかった。これに関しては現在論文を執筆中である。
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