研究概要 |
我々は最近見出した「線運動」の視覚イリュージョン効果を,空間的注意の様々な側面に応用し,(1)刺激依存的・自働的コンポーネントの分離(2)その時間特性(3)対象依存性(4)聴覚・触覚手がかりによる同様の効果,等を見出してきた(昨年までの成果).今年度はこれらの成果をまとめて公刊する(研究発表(1)〜(3))とともに、さらに「線運動効果」の別の側面として,特定の位置への運動準備-特にサッケード眼球運動や腕伸ばし運動-によってもやはり空間的注意があらかじめその位置に集中し,同様の効果をもたらすか否かを調べる一連の研究を行った.その結果このような条件のもとでも「線運動効果」は生起した.さらに一連のコントロール条件での結果から,この効果は視覚刺激そのものには帰せられず、また実際の筋肉運動そのものにも帰せられないことが明らかとなった.この結果は,運動軌道が実際の筋肉運動に先だって脳内でプログラムされるとき,このプログラミングに視覚的空間マップ上での活性化を必要とする場合があることを示すと解釈できる.また逆に,運動軌道に沿う空間位置での感覚感度を高める方向で,あらかじめ感覚情報処理を調節することには,それ自体明らかな生体学的なメリットがあるとも考えられる(5).神経生理学的には皮質下では上丘,皮質では頭頂連合野などが多感覚モデリティ空間マップを持ち,かつ注意関連の調節を受けることが知られている.また頭頂には運動視覚を担う領野(MT、MST)の存在も知られている.今後はこれらを念頭におきながら,さらに情動との関係や,ヒト・動物の選好・選択運動との関連が探求されなくてはならない.
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