研究概要 |
人間の認知システムの活動のうち、知識、概念、理解をとりあげてこれらの心理過程に含まれる感性処理的な要素を認知心理学の方法で特定し、ひいては認知システムの構成についても伝統的な見解とは異なった、感性処理主導型のモデルを提案するために、複雑で多層的な構造をもった日常的自然概念の認知過程をとりあげて心理学実験をおこなった。前年度におこなった映画・TVドラマの理解過程、広告・TVコマーシャルの評価過程、職業概念・性格概念の形成過程についての実験をひきつぎ,また本年度は新たに声質評価と道徳評価という対象を追加した.声質の評価は、関与する知識源が比較的限定され、しかも知識源相互の構造性は十分に複雑であることから選択された。道徳評価は、関与する知識源を限定することができず、かつ感情喚起を含んだ統合的な過程であることから選択された。 声質評価の実験は,合成音声を用いて音の質に関する主観的評定を被験者にもとめた.合成された言語内容そのもののわかりやすさ,ならびにその特定の言語の記憶が主観的評定に与える効果を検討した.結果として,合成音声の質の評価は,その音声や内容に関する記憶による影響を強く受けることが示された.さらに分析を深めることにより,主観的評定による感性的評価のメカニズムを検討していくことの必要性が示唆された. 道徳評価の実験は,一般的な理解過程において道徳判断や感情が喚起される要因を特定することを目的として、仮想的事件の記述に対する道徳的評価と生起した感情の記述を発語思考とともに被験者にもとめるという方法を用いた.結果として,状況の認知,道徳評価,対人感情の生起などの過程の相互依存性が見いだされ,対人感性の喚起過程についての全体像が示唆された.
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