研究概要 |
アテローム性動脈硬化症が低壁せん断応力部で発生する原因として,血管内膜表面のごく近傍でリポ蛋白を含む巨大分子の濃縮が起こり,そこでの血流速度が遅い(壁せん断応力が低い)ほどその濃度が高くなるのではないかと考えた。先に行った生体血管を用いた実験により、血管内に潅流する液流量の増加,あるいは液中の血清濃度の減少にともない,血管壁の水透過速度が上昇することがわかり,リポ蛋白の濃縮現象との関連が示唆された。本研究では,血管で見られた水透過速度の変化が,主に物理的現象によるものか,あるいは血管内皮細胞等による生化学反応に起因するものかを解明するため,物理的モデルとして血管の代わりに半透膜チューブを用い,その水透過速度に及ぼす血清濃度及び流れの影響について検討した。その結果、以下のことがわかった。(1)半透膜チューブの水透過速度は生体血管の場合と同様に,潅流圧に比例して変化した。(2)潅流圧一定の条件下では,水透過速度は時間的に変化し,時間の経過と共に徐々に低下した。(3)潅流流量が多いほどその時間的な低下は少なく,安定した時の値が高かった。(4)水透過速度は潅流液の流量変化に追従して可逆的に変化した。(5)潅流液中の血清濃度(リポ蛋白濃度)を高くするほど,水透過速度は低くなった。これらの結果より,血管の水透過速度が流量に依存して変化する現象は主に物理的現象に起因し,血管内膜表面上におけるリポ蛋白の濃縮現象による可能性が高いことがわかった。今後はリポ蛋白濃度の測定を試みると共に,培養内皮細胞層の水透過速度の壁せん断速度依存性を調べる予定である。
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