研究概要 |
血管は常に血流の力学的影響の下にさらされている.よって血管の幾何学的な形態と血流との間には密接な関連があると考えられる.血管形態の生理学的意義をバイオメカニクスを基礎に解明することが本研究の目的である.そのために,(1)血管の幾何学的計測(径,長さ,分岐角度)および(2)生体観察による「血管径-血流速」の測定を行う必要がある. 測定(1)に関して,今年度は生理的状態での血管の幾何学的計測(脳表)を行った.ネコ脳表に観察窓を作り,脳表に分布する血管の幾何学的計測,さらに測定結果と分岐流れの流体力学および最適原理との比較を行った.血管分岐形態の測定結果は最適原理から予測される結果に定性的には一致した.しかし,血管は分岐点と分岐点の間で曲がりくねっており,分岐角は分岐点のごく近傍(脳では血管直径の約3倍)でしか定まらないことが明らかになった.これらの結果より,血管分岐の形態はエネルギーの最小問題(最適原理)として理解されるのではなく,局所的な力学的問題であると考えられた.この結果は前年度の血管鋳型の測定から得られた結論と一致した. 測定(2)に関して,ネコを用いた動物実験法および血流測定法の開発を行った.平均血流速を測定する方法として,脳血管内にトレーサーを注入し,顕微鏡ビデオ撮影・画像解析による方法を検討した.舌動脈より総頚動脈に投薬用のカテーテルを挿入し,頭蓋に血管計測用の窓を作成する動物実験手技を確立した.またビデオ画面上でトレーサーの動きを検出するための電子回路を制作し,コンピューターでデーター処理をするシステムを製作した.今後これらの装置を用いて「血管径-平均流速」「血管径-ズリ応力」の測定を行い,血管の形態と血流の力学的作用の関連を調べる予定である.
|