研究概要 |
線維芽細胞をコラーゲンゲル内で培養し,機械的刺激のもとでの細胞の挙動を顕微鏡用VTR装置にて観察した.細胞が力学的環境を認識する機序,および細胞の張力発現などの機械的応答の過程について検討した結果,以下のことが明らかとなった. 1.細胞が増殖し張力を発現しているコラーゲンゲルにメスで切れ目を入れ,張力の解放にともなう細胞の挙動を観察した.切れ目に垂直に並んでいた細胞は,時間の経過とともに切れ目に平行に配列した.この配向はゲル内の引張応力方向に一致するものであるが,個々の細胞が応力方向を認識するというよりも,細胞の発現する引張応力による全体的なコラーゲンゲルの収縮の寄与が最も大きく,さらに細胞の遊走や増殖の効果も働くものと判断された.実際に細胞数が少ない場合には配向は見られず,多数の細胞が協調して生じる力学的なオートクリン効果とも言える現象であることが明らかにされた. 2.コラーゲンゲルのクランプ治具を製作し,細胞に繰返し伸縮の刺激を与えた際の力学的効果を調べた.培養期間の経過とともに細胞は応力方向に配向しマトリックスの剛性は上昇するが,静置群と比較して伸縮群では細胞の配向も剛性の上昇も顕著であり,細胞が培養下でも力学的環境に応じて適応することが確かめられた. 3.上の実験で得られた試験片を引張試験し,培養組織の力学的性質が力学的環境に応じてどのように変化するかを定量的に調べた.弾性係数と最大引張応力の両者とも,伸縮群が静置群よりも顕著に大きかった.しかし培養期間が長くなると組織内での弾性係数の不均一性が著しくなり,引張試験を行うことができなくなった.顕微鏡下で微細組織の引張試験を行えばこのような困難は避けられるので,今後はこの点について改良を加える予定である.
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