研究概要 |
筋収縮運動の発現メカニズムの解明のために以下の2点に関する数値解析を行った. (1)原子レベルの解析:1990年にNatureに公表されたHolmesらによるアクチン分子の3次元結晶構造実験観測データ,およびPDB(Protein Data Bank)に登録されているATPの3次元分子構造データを用いて分子力学・分子動力学計算を行った.まず,生体中に近い環境条件下を想定して水分子を配置し,つぎに3次元分子構造-コンフォーメーション:配座-を決定するためのポテンシャルエネルギ極小化探索,つまり緩和計算を行った.さらに,得られた3次元座標を用いて基準振動解析を行い,ゆらぎ特性と体積圧縮率を原子ごとに求めた.ここでの配座エネルギー極小座標決定にはタンパク質の分子力学計算プログラム“AMBER"を利用する.この場合にアクチンフィラメントへと構造形成する際に必要となるATPが欠落した場合,アミノ酸残基の主鎖切断が生じた場合との比較によって正常なアクチンが最もゆらぎの程度が大きく,圧縮率も大きい,つまり柔らかいことが分かった.このことは配座の変化が生じ易く,収縮運動機能が大きいことを意味しているといえる.つぎに,筋収縮運動の素過程としてのアクトミオシン相対滑り運動を律するATP分子の分子構造解析および分子動力学解析を行った.筋収縮を誘起するATP加水分解においてはマグネシウムイオンの存在が必要とされている。ここでは,マグネシウムイオンが存在しない場合には“りん"が消失し,運動機能が著しく損なわれることを確認した. (2)アクトミオシン分子単位の解析:アクチンおよびミオシン分子単位で定義された分子ポテンシャル理論に基づいてそれらの分子集合組織としてのサルコメアの収縮運動の解析を行った.神経終板への刺激からカルシウムイオンの増加,さらにはATP加水分解の発生という生化学反応プロセスに関する数値モデルの提案を行った.カエルの半腱筋を用いた電気刺激・等尺収縮実験結果とサルコメア単位の数値解析結果との比較を行い,興奮収縮連関の数値解析がかなりの精度で可能であることを示した.
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