本研究目的は、金属による炭化水素C-H活性化の表面モデルとして、金属-金属結合上に橋かけ配位した炭化水素配位子の結合状態と構造を明らかにせんとするものである。まず複核錯体と単核錯体の間で配位子の配位状態を比較する目的で、単核金属への配位状態が比較的広範囲に検討されているアリル配位子が複核金属に配位するパラジウム系錯体の一般的合成法を確立することにした。種々検討の結果、二価のπ-アリルパラジウムハロゲン化物やスルフィド錯体とゼロ価パラジウムエチレン錯体との反応が、多種類のアリル骨格を持つ二核橋かけアリル錯体を良好な収率で与えることが判明した。またゼロ価パラジウム錯体としては単離したものではなく反応系中で発生させるだけでも同様に好い結果を与えた。次にアリル基の置換基の電子的効果が、橋かけ配位の安定性にどのような影響を与えるかを調べるために、二核錯体と単核錯体間のアリル配位子の交換平衝を利用して、二核錯体に対する異なるアリル基の相対配位性を定量的に検討した。その結果、より電子吸引性置換基を持つアリル基ほど二核パラジウムに強く配位することが判明した。これは、比較的電子密度が高いパラジウム-パラジウム結合から電子不足型アリル基への電子の流れが効果的に働くからであろう。次に溶液中での二核アリルパラジウム錯体の構造をNMRスペクトルで詳細に検討した。興味あることに、アリル基の1位に、メチル基、クロロ基、フェニル基があると、これらはアリル骨格の中央水素のアンチ位に位置することが判明した。単核錯体では、通常これらの置換基は、シン位にあることが知られており、二核錯体におけるこの特異な構造には、上に述べた電子構造の特徴と立体効果とが反映されているものと思われる。
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