分子磁性体の実現には、常磁性化学種間で強い磁気的相互作用をもつ多次元ネットワークの構築が不可欠である。多次元ネットワークの創る系に、有機伝導体としてしられる一群の有機ラジカルがある。本研究では、有機ラジカルTCNQ(テトラシアノ-P-キノジメタン)と金属錯体からなる複合電子系を合成し、錯体の構造および有機ラジカルと金属との磁気的相互作用について次のことを明らかにした。 [Mn(salen)(TCNQ)_<0.5>] (salen:N_4O_2シッフ塩基配位子) 中心金属であるMn(III)イオンは平面方向からN_4O_2シッフ塩基が軸方向からTCNQが配位した6配位構造を持ち、結晶においては[Mn(salen)]^+がTCNQにより架橋された一次元構造をもつ。さらに、TCNQの分子内結合距離およびIRスペクトルより、非常に珍しい酸価状態のジアニオンであることがわかった。磁化率の温度変化の測定により、スピン多重度5/2のMn(III)イオン間に反磁性分子であるTCNQ^<2->をつうじた磁気的相互作用はない。 [Fe(CH_3OH)_4(TCNQ)_2](TCNQ) 中心金属であるFe(II)イオンのスピン多重度はS=2であり6配位構造をもつ。この錯体は2種類(ニュートラルとモノアニオン)のTCNQ分子がカラムをなし、そのカラムをFe(III)錯体がつなぐ二次元ネットワーク構造をもつ。磁化率測定の結果、Fe(II)イオン間にはこのカラムをとうし弱い反強磁性的相互作用(-0.243(9)cm^<-1>が働く。 本研究により、TCNQと高スピンFe(II)・Mn(III)との錯体において、常磁性金属錯体を有機ラジカルのネットワークに組み込むことに成功したが、期待された、有機ラジカルをとうした金属イオン間の相互作用は得られなかった。今後、ほかの金属イオン(例えば銅イオンや、第二・第三遷移金属イオン)をもちいた化合物合成が必要である。
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