研究概要 |
1.スチルベン誘導体のカチオンラジカルを経る光誘起異性化における磁場効果 電子受容性増感剤存在下の(Z)-スチルベンの光異性化の効率について,ハロゲン原子の異性化に対する効果と異性化の磁場効果に対する影響を調べた.9,10-ジシアノアントラセンを増感剤とする(Z)-4,4'-ジハロスチルベン((Z)-X_2St)のアセトニトリル中の異性化効率を種々の磁場中で測定した.(Z)-Cl_2Stが(Z)-H_2Stとほぼ同程度の磁場効果を示すのに対し,(Z)-F_2Stではそれより大きな磁場効果が,(Z)-Br_2Stではそれより小さな磁場効果が観測された.この結果は超微細相互作用の大きいF原子の存在が磁場効果を増大させるのに対し,重原子のBr原子は超微細相互作用を相殺する効果があることを示唆する. 2.ビラジカルの寿命に対する立体配座の効果 ラジカル中心を結ぶ炭素骨格内にベンゼン環を導入した2種類のアシル-ジフェニルメチル型三重項ビラジカルの挙動を調べた.6,6-ジフェニル-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾシクロヘプテン-7-オン(CK-7a)の光開裂からは不飽和アルデヒドが,また,7,7-ジフェニル-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾシクロヘプテン-6-オン(CK-7b)の光開裂からは不飽和アルデヒドと脱カルボニル後の再結合生成物が得られた.これらの系で注目される点は,構造の類似した2種のケトン(CK-7a,CK-7b)から生成する三重項ビラジカルの寿命が著しく異なることである.この事実は,ベンゼン環の置換位置の違いによって,ラジカル中心間の近づきやすさが制限され,その程度の違いによって,項間交差の速度が変化しうることを示唆する.
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