研究概要 |
光化学反応初期過程に生ずるラジカルイオン対(RIP)のスピンダイナミックスを時間分解ESR法を用い、特に交換相互作用とその符号の問題を研究した。さらに新しい研究手法の開発を行ない、ESR法では見ることが出来ない現象の観測を試みた。TMPD(N,N,N',N'-tetramethyl-p-phenylenediamine)はアルコール溶液中において、その励起一重項状態からRIPを経て光イオン化する。この系における時間分解ESRスペクトルから次のような結論に達した。励起直後に観測された信号はRIPに由来し、この測定時間領域でRIPが存在し、この系の交換相互作用は正の符号をもつ。また、少し遅れて立ち上がる信号は、そのg値から溶媒和電子である。 本研究では新しい測定手段としてTMPDの遅延蛍光測定を行い、RIPの動的挙動の研究が可能であることを示した。磁場効果の測定を実行した結果、磁場による遅延蛍光の発光強度の減少を示した。このデーターはレベル交差等に関する知見を含んでいると考えられる。また、本計画で購入したマイクロ波アンプによりESR共鳴条件下で蛍光測定を行ない、光検出によるESR測定に成功をおさめ、この手法が将来的にスピン化学における重要な役割を担う可能性を示せた。 この系に関しては、さらに磁場下における過渡的光電導度測定法も同時に試みた。この手法によるラジカルイオン対の研究は今後特に有望な方法と考えられ、ESRキャビティー内における測定を試みた結果、100mT以下の低磁場で大きな光電流の増加が認められた。これは、この系においてHF機構が主に寄与しており、さらに三重項状態からの速い減衰が起こっていることを示している。現在は上記3種類の手法のTMPDに関する情報を統合的に解釈する試みを行なっている。本研究から、溶液中におけるRIPのクーロン相互作用による運動の束縛が重要であることが、積極的に証明できた。また交換相互作用の符号の問題がRIPに関連していることが分かった。
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