研究概要 |
有機配位子と遷移金属との間に非局在化している不対電子がどのような挙動をしめすかは興味深い問題である。このような電子状態は共役メタラサイクル上で実現する。本研究ではは6個のpi電子を有するユニークな環系であるメタラジチオレン環に由来するラジカル種の特異な挙動を、本年度は、ビス(1,2-エテンジチオラト)金属錯体の架橋型S,S′付加体について検討した。 架橋型付加体はいずれも光化学的に架橋部分の炭素と硫黄の結合が切断されるが、1,4-ブタンジイル基で架橋された錯体では室温下ベンゼン中で長寿命(数百秒)の非常に特異な金属錯体ラジカルを生成する。この金属錯体ラジカルは2つの反応経路、生成するビラジカルが再結合してもとの付加体へ戻る速い過程と、さらにアルキルビラジカルと遊離錯体を生成する遅い過程とによって消滅するこることが、ESR、rapid scan UV-Visスペクトルの同時測定によってわかった。 新たな研究の展開として、メタラジチオレン環上でのラジカル置換反応を見いだした。コバルタジチオレンはalpha,alpha′-アゾビスイソブチロニトリルから生成するラジカルによって置換される。N-ブロモスクシンイミドとの反応でスクシンイミド基による置換が起こることが見いだされたが、これは極めて珍しいタイプの反応である。ここにもラジカルの関与が示唆される。この反応はメタラサイクルの芳香属性を化学反応の立場から実証したもので大きな意義を持っている。
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