研究概要 |
Heisenberg群の「超有限」拡大とそのユニタリー表現論を用いた無限自由度量子系=量子場の新しい定式化を目指すことが本研究計画の目標であるが,これは,無限小量・無限大量の統一的な制御により,ミクロの動力学とその散逸的なマクロ化過程を包括的に記述するような理論的枠組の問題と不可分の関係にある.この研究の過程で,前者の目標実現のためには,後者に関わる量子確率論的な概念整理がもう少し必要なことが明らかになってきた.そこで,その問題に取り組んだ後に,得られた結果の非標準的拡大を考え,それによって前者の問題に接近するという方針で研究を進めたが,量子情報論的な側面に関わる問題の考察に予想外の時間を要したため,本来の課題に関する研究は現在進行中で,未だ結果を論文の形でまとめる段階には至っていない.今年度の成果としては,初期状態への依存性を有する複合的力学過程の整合的記述に関する研究をまとめた.これは,物理量の代数の非同値表現に対応した異なる初期状態の選択に応じて,与えられた動力学法則に従う物理系が示す様々なチャンネル特性を,大矢雅則・Accardi両氏によるchannelのliftingの概念,および,Lindblad氏による1の分解の作用素論的拡張を用いて統一的に記述するものである.この考察によって,非可換量の同時測定の数学的定式化において物理量の測度論的拡張概念として現われる正作用素値測度と量子場概念との密接なつながりが明らかになってきたので,Haag氏が注目する正錐とface・射影子の相互関係,核型性条件の問題をここに適切な形で取込めば,量子場理論のより自然な定式化を求める上での有効な指針が得られるものと期待される.
|