研究概要 |
Hermite対称領域Dの数論的群による商D/Γのコンパクト化についてはこれまでに深く研究されている。一般に,Dを重さwの偏極Hodge構造の分類空間とすると,Dが古典的なHermite対称空間となるのは非常に限られた場合のみである。古典的な場合を越えたところでのこれまでに得られている結果としてはCattani-kaplanの仕事(1977年)がある。彼らは重さw=2の場合にD/ΓのHausdorff位相空間としての部分コンパクト化を構成した。 筆者の今回の論文[1]は彼らの論文中の一つのKey Lemmaを一般の重さwの場合に拡張したものである。つまり,古典的な場合に基本的な役割をはたしたSL_2の(H_1)-準同型という概念を一般化したSL_2-軌道(p,r)と同等な情報を与える対(Y,r),YはDの自己同型群のLie環中の半単純元でありr〓D,の数値的判定法を得た。この結果を使い,論文[2]では,一般の重さwの場合に,最も穏やかな零軌道(N,F),i.e.N^2=0でかつdim Im N=1(w:奇数),2(w:偶数),の不変サイクルKer Nへの制限を付け加えることにより,D/Γの部分コンパクト化D/Γを構成し,その上に複素構造を導入し,さらに周期写像の解析的拡張を示した。今回得た枠組みの中で,例えば,非特異一般型曲面が,単純楕円型特異点を一つ持つものに退化するとき,それに対応する周期写像が解析的に拡張でき,それの境界点における微分ということも考えることが出来るようになった。 分担者のうち、伊吹山知義は有限体上の代数曲線の有理点の個数に関する研究[3],保型形式の次元公式に関する研究[4],super singular偏極Abel多様体の定義体に関する研究[5](桂利行との共著),L-関数に関する研究[6](斎藤裕との共著)を行った。満渕俊樹はFano多様体の正則自己同型群に関する研究[7](H.D.Hwangとの共著),モーメント写像のQ-有理性に関する研究[8],Killing形式の一般化に関する研究[9]を行った。難波誠は与えられた有元部分群をモノドロミー群とするPfaff系の構成法を与えた[10]。
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