研究概要 |
地殻の条件下での実験的研究が日本では非常に少ないため,われわれはガス圧式高温高圧装置を用いて以下の2点に関する実験を行ったので,その概略を報告する. 1.大規模珪長質噴火のマグマ溜りの例として2.2万年前の始良火砕噴火の大隅軽石の融解実験により斑晶鉱物を再現させ,それが存在していたマグマ溜りの条件を明らかにする.2.2万年前の始良火砕噴火では 大隅降下軽石→妻屋火砕流→亀割坂角礫→入戸火砕流 の順に噴火が推移し,100km^3以上の均質な流紋岩質マグマを噴出した.斑晶鉱物は斜長石,石英,斜方輝石,磁鉄鉱,イルメナイトである. これまでの成果を踏まえ,今回0.4GPa,850〜750℃,含水条件のもとで融解実験を行った.その結果750〜850℃,H_2O6%以下の水不飽和な条件下で天然の斑晶鉱物組合せが再現できることがわかった.また今回の実験範囲ではliquidus相は常にplagioclaseであること,低温,高H_2O側ではopxに代わってhornblendeが晶出することが認められた.この結果から噴火前のマグマは10〜15kmの深さで800℃程度H_2O不飽和の条件に置かれていたことが推定された. 2.地殻物質として阿武隈山地の泥質片麻岩を例にとり,不飽和含水条件のもとで高温高圧下で部分融解させ,融解時に起きる組織の変化からその反応を検討した.この実験では黒雲母片麻岩(鉱物組合せ:黒雲母,菫青石,珪線石,石英,斜長石,カリ長石,不透明鉱物)を,H_2Oを加えずに(H_2Oは含水鉱物に含まれるもののみ),0.4GPa,650〜900℃に保持する.予察的な観察では750℃以上の温度では,黒雲母は石英との境界部で反応し,Caに乏しい角閃石(直閃石-ゲードル閃石もしくはカミングトン閃石),カリ長石(成分にとむメルト)を生じる.黒雲母の内部など石英成分に乏しい所ではこれらの他にスピネルも生じている.また800℃以上の温度では明らかに鉱物の境界に沿ってメルトが発生していることが確認された.この条件下では900℃までに黒雲母は消滅する。
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