研究概要 |
今年度は、ピストンシリンダー型高圧発生装置を用い、パルス透過法とパルス反射法の両手法を当研究センターにて開発し、透過法では振幅の大きな波が得られ、高圧高温下における減衰係数の決定に有効であり、反射法は正確な弾性波速度の決定に有効であることを明らかにした。1GPaまでの圧力でピストンのもつ弾性波速度を決定し、ピストン中を伝わる波の伝播時間を求め、ピストン内での波の減衰が無視できることも確認し、試料のみの減衰係数及び弾性波速度の決定を可能とした。また石英ガラスを試料とし、その弾性波速度の圧力依存性を1GPaまで求め、従来得られている速度の結果と一致することを確認した。 また、正確な超音波測定のため、今回新たに開発した測定系の特徴として、高電圧用のアナログスイッチがある。パルス反射法の際に、このスイッチによって高電圧(約100V)パルスと微小な反射波パルスのスイッチングを行い、微小な反射波パルスのみを増幅しオシロスコープで観察する。これによって弾性波が減衰しやすい状態(例えば高温部分溶融状態)においても振幅の大きな信号を観察することができ、正確な超音波測定が行える。更に高圧高温下における測定に先立って、試料アセンブリー部の圧力較正を行い、またその温度分布を調べた。その結果、2GPa・1300℃までは試料部の温度勾配は5℃/mm以下と小さいことを確認した。 本年度はまた、上部マントル物質に関する常圧常温における物性データに基づき、高圧高温における縦波及び横波速度を理論的に計算し、地震の速度構造と比べ、低速度領域の温度及び部分溶融量(マグマの分布)についても検討を行った。その結果、特にテクトニックにアクティブな地域(Midocean ridge,Hotspot,Rift,Basin and Range,Island arcなど)の上部マントル低速度層(顕著な低速度領域)には数%から10%程度の部分溶融が存在するが、平均的な上部マントル低速度層(あまり顕著でない低速度領域)に部分溶融は存在しないことが示された。たとえば、若い海洋プレート下のアセノスフェアに部分溶融は存在する(太平洋下では約35Maまで)が、古い海洋プレートや大陸下のアセノスフェアに部分溶融は存在しないことが示された。
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