研究概要 |
本研究の目的は,フラーレン及びフラーレン化合物の単結晶ないしは良質試料を作製して主にその光学的性質を測定することによって,これらの物質の電子構造や電子格子相互作用を明らかにすることであった。本研究は,フラーレンにおける超伝導が,A_3C_<60>(A;アルカリ金属)などの特殊な組成(分子価数)のみで発現するのかという基本的な問題とも関連している。以下に本研究で得られた成果を列挙する。 1.C_<60>,C_<70>単結晶を昇華法によって作製し,その光反射スペクトルを赤外〜真空紫外のエネルギー範囲で測定した。これにより、高エネルギースケールでの電子構造と光学定数を決定した。 2.C_<60>,C_<70>薄膜の電場変調スペクトルを測定し,吸収端近傍の禁制遷移について詳細な知見を得た。3.C_<60>,C_<70>の単結晶及び溶液のT=2Kでのフォトルミネセンススペクトルの測定を行った。これは,光吸収によって生成された電子正孔対が固体および分子状態で受けるエネルギー緩和を敏感に反映するプローブである。溶媒によってmatrix-isolateされたC_<60>分子は比較的幅の広いエネルギー緩和の大きい発光スペクトルを示すが,C_<70>は幅の狭いエネルギー緩和の小さな発光スペクトルを示すことが明らかになった。この結果は,C_<60>分子の光励起状態と分子内振動の相互作用がC_<70>のそれに比べて異常に大きいことを示している。 4.アルカリ金属C_<60>化合物A_χC_<60>の光スペクトルをA=K,Rb,χ=3,4,6について測定した。試料は,我々が独自に開発した共昇華法を用いて作製した。K_3C_<60>とRb_3C_<60>は,バンド描像から予測されるものに近いスペクトルを示したが,K_4C_<60>,Rb_4C_<60>は金属状態が予測されるにもかかわらず,0.4eVに吸収の山を有する半導体であることが明らかになった。
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