研究概要 |
アーク放電法におけるフラーレン生成機構を解明するために,紫外から赤外に亙る分光学的診断をはじめ,各種のプラズマ診断が容易なアークチャンバを設計製作した。放電期間中に実験条件(圧力,ギャップ長,ガス温度)が変化しないように,冷却方法を工夫し,ギャップ長監視装置を考案し,圧力調整バルブを取り付けた。 製作したアークチャンバを用いて,まず,フラーレンを生成し,その収率および生産速度を求めた。実験条件は,雰囲気をヘリウム,電流を直流150A,電極を直径10mmのグラファイトとし,圧力(1〜100kPa)およびギャップ長(1〜8mm)をパラメータとした。その結果,圧力が約10kPaで,ギャップ長が6mm以下の時に,フラーレン収率が最も高く,かつ,生産速度が最も速いことが判明した。 次に,アークプラズマから放射されるスペクトルを計測した。その結果,陰極近傍のプラズマ空間からはCおよびC^+スペクトルが強く放射されるのに対し,陽極近傍の空間からはC_2のスペクトルが放射されることが判明した。更に,スペクトル強度の軸方向分布を計測し,アーク軸に沿った温度分布を計測した。その結果,陰極近傍のプラズマの温度は,陽極近傍のそれより高いことを明らかにした。これは,陽極の激しい蒸発に伴い,陽極近傍には低温の粒子が充満するためであると考える。また,圧力およびギャップ長を変えて,C_2スペクトル強度を観測したところ,圧力が10kPa,ギャップ長が2〜4mmの時最大であった。この条件はフラーレンが最も効率的に生成される条件と一致する。このことから,フラーレンの成長過程には,C_2分子が重要な役割を果たしていると考える。
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