研究概要 |
当重点領域研究の一つのポイントとして,金属錯体を電子プールとして捉え,その多様な電子移動過程を解析して,有機系の電子移動反応に結び付けることが挙げられている.そこで本研究では一つの錯体ユニット内に複数個の金属イオンを持つ遷移金属クラスター錯体に注目し,可逆性に優れた多電子移動能を持ち得る新しい錯体を合成し,その多様な酸化還元機能を明かにすることをねらいとした.対象とした錯体は,オキソ-アセタト架橋のRu複核および三核錯体である[Ru_3(μ_3-O)(μ-CH_3COO)_6(L)_3]^+型の三核錯体は,Ru_3の酸化状態が(II,II,III)から(III,IV,IV)までを可逆的に取る.このユニットのLの部位に酸化還元活性配位子,N-methyl-4,4'-bipyridinium ion(mbpy),を導入することにより可逆10電子移動系を実現することが出来た.我々はさらに,Ru_2M型(M=Cr^<III>,Zn^<II>,Mg^<II>など)の混合金属三核錯体の合成にも成功した.Mの種類により,酸化還元電位や基質との反応性を制御することが可能となる.Ru複核錯体の場合には,関与する電子数が少なくなるが,やはり類似の酸化還元還元挙動がみられた.複核錯体の場合には,一等量の酸の存在下で,還元側の電位が著しく正にシフトすることが観測された.この現象は,還元が進むほどオキソ架橋へのプロトン付加が起こり易くなるため,酸存在下では還元型の(II,III)および(II,II)がヒドロキソ架橋錯体となることを反映している.さらに,二等量の酸の添加により(II,III)/(II,II)の酸化還元電位がわずかにではあるが,一段と正にシフトした.このことは,(II,II)の状態がアクア架橋となる可能性を示唆している.イミダゾールなどプロトンを持つ配位子が配位した複核錯体では還元にともなう分子内プロトン移動が観測された.我々はまた,Ru三核錯体のアセトニトリル溶液中でのパルスラジオリシスを行い酸化還元反応性に関する基礎的な知見を得た.
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