研究概要 |
電極表面に修飾された分子内チャンネル膜を通して有機化合物の膜透過性を制御することにより,有機化合物の新しい電子移動場を設計した.親油性シクロデキストリン誘導体1はその疎水性内孔が分子内チャンネルとして機能する可能性があり,その単分子膜を電極表面に化学修飾することは,有機化合物に対して,膜透過性の制御に基づく新しい電子移動場を創製することになり興味深いと考えた.その結果,β-シクロデキストリン誘導体1を用いて分子内チャンネルモードに基づく膜透過性の制御が実際可能であることを示す実験事実を得た.即ち,分子レベルで平らなことが知られているHOPG電極を用いて水平付着サイクリックボルタンメトリーにより,気液界面のシクロデキストリン誘導体の縮合単分子膜のp-キノンに対する透過性を検討した.シクロデキストリン単分子膜の存在する場合,p-キノンの還元波は減少を示したが,その減少の度合いはシクロデキストリン疎水性内孔を通過できない大きさの[Co(phen)_3]^<2+>及び[Mo(CN)_8]^<4->の場合に比べて著しく小さかった.更に,その電子移動速度が小さいにもかかわらず良好なピークが得られた.これらの結果は,p-キノン(約6.3A)がシクロデキストリン単分子膜が形成する分子内チャンネル(直径約7.5A)を通過できるために電極表面に容易に到達できることを示す.β-シクロデキストリンの疎水性内孔に基づくp-キノンの透過性はホスト-ゲスト錯形成により内孔をブロックし,p-キノンのチャンネル透過を阻害する有機ゲストにより著しく減少した.その選択性は1-アダマンタノール>>シクロヘキサノール>アデノシン>シチジン>ベンジルアルコールの序列となった.この選択性はゲストのチャンネルブロッキング効果を反映している.この結果は,電極界面における電子授受マーカー分子の電子移動を人工チャンネル内孔の選択透過の分子機構により一般的に制御できることを示している.
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