研究概要 |
非ヘム鉄を活性中心とするカテコールジオキシゲナーゼおよびモノオキシゲナーゼの機能を発現する非ヘム鉄錯体触媒を開発し,反応の活性と選択性を制御する因子を解明することを目的に,反応と錯体構造,電子構造解析を行った。カテコール鉄錯体を用いて両反応を行うことが可能となり,両反応の統一的な理解に役立つ情報が得られた。 カテコール鉄錯体の溶液中の構造についてX線吸収スペクトルとESRスペクトルを中心に分光学的検討を行った。FeCl_3/pyridine/catecholで生成する錯体は、THF溶液では5配位単核錯体で,鉄に配位したセミキノンラジカルであることが分かった。これにピリジンを加えると,ピリジンが配位した6配位の高スピン鉄3価の錯体となることが明らかになった。この変化はセミキノナート鉄(II)とカテコラート鉄(III)錯体間の平衡の存在を示し,従来の我々の提案を支持するものである。一方,酸素化が進むためには過剰のカテコールの存在が重要であることがわかったので,カテコール錯体のカテコール配位子交換反応をスペクトル法およびD化カテコールを用いた同位体法によって検討した。その結果,カテコール配位子は,外部のカテコールと容易に交換するが,酸素との反応は配位したカテコールが優先的に起こることが明らかになった。さらに,3価鉄によるIntradiol型開裂と2価鉄によるExtradiol型開裂の制御機構を解明する為に,THF/py系とは別にTHF/H_2O系で反応を行ったところ,反応活性が水の濃度に著しく依存するばかりか,水濃度によりIntradiol/Extradiol選択性が変化することが見いだされた。特に,水濃度の低いところではExtradiol型反応が優先するのに対し,水濃度が高くなるとExtradiol型反応が阻害されることがわかった モノオキシゲナーゼ型反応については,本研究では,ヒドロキノンの電子状態を置換基を変化することで調整することができること,また,鉄の電子状態をカテコール鉄錯体を用いることによりカテコールの置換基で調整できることを明らかにした。
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