研究概要 |
γ-位に不済中心を有する鎖状アリリック化合物として,基質Z-(TBDMSO)CHCH(TBDMSO)-(R^1)C=XR^2R^3(1)を設計した。本基質は,保護された隣接ジオールを含む構造単位-(TBDMSO)CHCH(TBDMSO)-をコントローラーとし,これによって基底状態の立体配座を制御しようとするものである。その結果,それに連結する置換基(R^1C=XR^2R^3のジアステレオ面が極めて高い選択性で区別可能となる。すでに筆者はいくつかの反応に関してその仮説が間違っていないことを確認し,有機合成化学的な観点から上記の分子設計が意義深いことを主張してきた。しかし,依然として立体配座仮説に関する物理的証明はなされておらず,それがこの分子設計を一般的な合成概念として確立するための本年度の第1課題と考えた。1に関してこれまで報告したいくつかの反応と相当するアセトニド誘導体の反応(ディールス・アルダー反応,アミノマイケル付加反応,オスミウム酸化反応,シクロプロパン化)の立体化学的結果と反応性の系統的な比較を行った結果,極めて明瞭な違いが観測された。すなわち,1の反応性は低いが,反応さえ進行すればジアステレオ選択性は>99%と極めて高いことが際立った特徴として観測された。この結果をモデル的に考察したところ,すべて1の安定な基底状態の立体配座に基づいて合理的に理解させるものであることを明らかにした。さらに可能な限り基質および生成物の核オーバーハウザー効果を詳細に調査した結果も同様の結論に導かれた。さらに系統的なモデル化合物を用いた励起子キラリティー法および分子軌道法に基づいて検討した結果も,全て立体配座に関する作業仮設の合理性を支持するものであった。以上のように,本年度の第1課題はほぼ達成されたので,今後は1の立体配座を活用する超活性反応種の制御と選択的な有機合成の開発を推進する。
|