研究概要 |
14族金属(Si,Ge,Sn)の2重結合化合物(ジメタレン)は一般には不安定中間体であるが、近年、嵩高い置換基を導入し、速度論的に安定化することで単離されるようになり、14族金属化学の新しい領域として発展している。通常ジメタレンはトランス折れ曲がり構造をとることが有利であるとされるが、シリル基を導入することによって平面構造がより有利になり、熱力学的にも安定化することが理論的に予測されている。シリル基はジメタレンの物理的化学的性質を変化させる特異な置換基として注目される。今回、ビス(トリアルキルシリルノジブロモシランの還元的カップリングによって、対応するテトラキスノトリアルキルシリル)ジシレン((R_3Si)_2Si=Si(SiR_3)_2;1a,R_3Si=i-Pr_2MeSi;1b,R_3Si=t-BuMe_2Si;1c,R_3Si=i-Pr_3Si)およびジゲルメン((R_3Si)_2Ge=Ge(SiR_3)_2;2a,R_3Si=i-Pr_2MeSi;2b,R_3Si=t-BuMe_2Si;2c,R_3Si=i-Pr_3Si)をはじめて合成単離し、その結晶のX線結晶解析に成功した。 1a-cのSi-Si2重結合の平均距離は2.24Aであり、これまでに知られているアリール置換ジシレンに於ける距離よりも約0.1A長い。1aおよび1cはやや折れ曲がり、1bは少しねじれていた。また、ジゲルメン2aはこれまでX線結晶構造の報告されたジゲルメンの中では最も平面構造に近いジゲルメンであることが分かった。さらに、溶液中の紫外可視吸収スペクトルおよびその温度依存性が置換基によって著しく異なるなどテトラシリルジメタレンの特異な構造を明らかにした。2cの吸収の温度変化は特に顕著であり、溶液中のGe-Ge2重結合回りの構造が低温では結晶中でみられたベント構造をとっているが高温ではねじれ構造の寄与が重要になることが推定された。
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