研究概要 |
1.配位子が存在しない系での金属イオンの金属原子ヘの還元,原子の凝集による金属クラスターの生成,およびクラスターの凝集による沈でんの生成を,テトラクロロ金(III)酸のエタノール/水溶液に対する光照射の場合で,電子スペクトルの経時変化で追跡した。その結果,光照射開始後約4分で金イオンに由来する230および320nmのピークは消滅し,約10分で金クラスターの表面プラズマ吸収が530nmに現われはじめ,時間と共に増大するが,約60分で減少しはじめ沈でんを生じることがわかった。 2.上記1.の実験で約16分経過した時点で有機配位子となるトリフェニルホスフィンを添加すると金クラスターは安定化され,長時間放置しても沈でんを生じることはない。 3.トリフェニルホスフィンで安定化された金クラスターの電子顕微鏡写真を撮影したところ,粒径約10nmであった。トリフェニルホスフィンを添加する時点を変化させると,早い時点で添加したものの方が粒径が小さく,遅い時点で添加したものの方が粒径が大きかった。このことはトリフェニルホスフィン添加の時機により金クラスター錯体の粒径を制御できることを示している。 4.上記2.の実験で得た溶液の^<31>P-NMRを測定したところζ=41ppmに巾広い1本線が現われた。遊離のトリフェニルホスフィンのPはζ=-7ppmに鋭い1本線であり,ζ=41ppmにあらわれる溶液にさらに当量のトリフェニルホスフィンを加えるとピーク位置はζ=30ppmにシフトする。これらの事実はトリフェニルホスフィンが金クラスターに配位し,遊離のものと速い平衡にあることを示している。
|