研究概要 |
5価5配位リン化合物におけるリン上の1つの置換基を遷移金属フラグメイトで置き換えた化合物はメタラホスホランと呼ばれ、たいへん興味深い。本研究では遷移金属フラグメントとしてCp(CO)_2Feおよびその誘導体を用いたメタラホスホラン錯体の合成およびその性質について調べた。 [CP(CO)_2Fe{P(OPh)_3}]PF_6とo-NaOC_6H_4NH_2とを-78℃で反応させることによりCp(CO)_2FeP(OC_6H_4NH)_2が生成することがわかった。この反応は求核試剤が鉄に配位しているリン原子を直接求核攻撃してリンの原子価を拡張するという全く新しいメタラホスホランの合成法である。この方法によりCp(CO)_2FeP(OC_6H_4O)_2やCp(CO)_2Fep(OC_6H_4NH)-(OC_6H_4O)も合成可能であることがわかった。また、Cp(CO)_2FeCl、HP(OC_6H_4NH)_2およびn-BuLiとの反応でもCp(CO)_2FeP(OC_6H_4NH)_2が生成することを見いだした。この反応は、まずHP(OC_6H_4NH)_2とn-BuLiとの反応でN上のHが引き抜かれ、その後Cp(CO)_2FeClとの反応でプロトン転位を伴ってメタラホスホランが生成するという点で興味深い。この方法で数種のCp(CO)LFeP(OC_6H_4NH)_2(L=ホスフィン、ホスファイト)が合成可能であることがわかった。 以上合成した数種の鉄ホスホラン錯体のIR,^1H NMR,^<31>PNMRスペクトルを比較検討した。その結果、3方両錐構造をとるリン原子において、アミノ基がエカトリアル位にきた場合には、その窒素上のローンペア電子が他のエカトリアル結合のσ^*軌道にπ供与し、また鉄フラグメントがエカトリアル位にきた場合には、鉄のd軌道からホスホランのアピカル結合のσ^*軌道へπ供与が起こることを示唆された。
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