研究概要 |
固体水素は次のような特異的性質をもっている。p-H_2は回転量子状態がJ=0であり、核スピンが0である。一方、o-H_2はJ=1の状態にあり、核スピンは1である。本研究では、このような量子固体H_2を化学反応のマトリックスとして使用する。第一のテーマとしては、トンネル反応に対する回転量子状態(J=0,1)の影響を調べた。4.2K固体水素[p-H_2またはn-H_2(75% o-H_2)]にγ線を照射しH原子の拡散・減衰速度を求める。拡散はH_2+H→HH_2トンネル反応の繰り返しによって起こると考えられ、減衰速度はトンネル反応の速度に対応する。また、^6Li(n,α)T反応によってT原子を入射するとH_2+T→H+HTトンネル反応が起こる。p-H_2とn-H_2(75% o-H_2)を用いた時のHTの収量はトンネル反応の速度に対応する。以上の結果からk[H_2(J=0)+H(T)]/k[H_2(J=1)+H(T)]の比を求めると約4となる。H原子やT原子は、H_2分子とトンネル反応を起こし、H_2(J=0)とはH_2(J=1)よりも速く反応することが明らかになった。第二のテーマとしては、ESRスペクトルに対する量子固体H_2の影響を調べた。p-H_2中のH原子のESRスペクトルはn-H_2(75% o-H_2)中のスペクトルよりも線幅が著しく狭い。これはp-H_2中ではH原子と周囲のH_2分子とのSuperhyperfine相互作用が無いためである。この研究をさらにアルキルラジカルのESRスペクトルの場合にも展開した。p-H_2中では液体中のようにスペクトルの線幅が極めて狭く超微細構造が明確に現われることを見出した。
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