自己交換電子移動系の反応ダイナミクスに着目し、その研究を展開するための反応系を探査し、いくつかの分子系において、自己交換電子移動反応が重大な寄与をしていることを見いだした。まず第1にアセトンのラジカルカチオンの2量化反応の反応速度をピコ秒パルスラジオリシスで測定し、その2量化反応が、ラジカルイオンとその親分子との間で起こる自己交換型電子移動により加速され、見かけ上の反応速度が拡散律速を越えることを見いだした。特に、その電子移動過程においては、ポテンシャル曲面の交点(活性化状態)付近で、振電状態が対称であることにより、電子交換の頻度が増して、相互作用が大きくなり、錯合体の寿命がのびて、見かけ上の反応速度が増大することを予想した。第2に、ポリシラン類のラジカルイオンをガンマ線照射による低温ラジオリシスおよび室温のナノ秒パルスラジオリシスで生成し、その吸収スペクトルおよび過渡吸収スペクトルを測定した。低温ではセグメント間電荷共鳴吸収に由来すると思われる吸収が見いだされ、室温ではそれが高速に緩和してゆく動的過程が観察された。これは、鎖長の異なるセグメントが、事実上等価な分子団として振る舞い、室温溶液中では、自己交換型電子移動として高速のセグメント間電子移動反応が起こっているものと解釈できた。これはポリシランなどのシグマ共役高分子のイオンラジカル特有の現象であると思われ、電導性高分子のダイナミクスを知る上で重要な知見を与えるものと思われる。
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