ガウス基底展開に基づく大規模緊密結合法により、水素原子の多価イオンとの衝突による電離過程及び電子捕獲過程を研究した。まず、炭素の6価イオンとの衝突に対して、1keV/amuから400keV/amuの入射エネルギーの範囲で電離断面積を計算した。電離過程の過去の理論研究は殆どが摂動論によるものであり、この過程の中間エネルギー領域での信頼出来る理論計算は皆無であった。この試験計算により、多価イオン側の低い束縛状態が重要な寄与をすることが見いだされた。従来、多価イオンと中性粒子の衝突では、始状態からエネルギー的に遠く離れた低い束縛状態は遷移確立が極めて小さいため、緊密結合方程式の基底からは除外されるのが一般である。これらの低い束縛状態は電子捕獲の組み替え衝突には寄与が小さいが、電離、及び励起過程には負触媒の用に作用し、それら断面積を数桁以上変えてしまう事を数値的に示し、かつ、その物理的機構を明らかにした。この現象は炭素イオンに限った現象ではなく、任意の多価イオンと中性原子の衝突において、更にはもっと一般的に、透熱基底による中間エネルギー衝突の広い過程において普遍的に起こり得る現象であることが指摘された。この計算を、He^<2+>からO^<8+>までの総ての入射粒子に対して計算を行い、理論的に解析した。また、ヘリウム原子から多価イオンへの電子捕獲におけるQ値を計算し、カンザス州立大学の実験データと極めて良い一致を得た。Q値の計算には多くの励起状態を基底に含める必要があり、この実験データを再現出来る理論計算は現在唯一のものである。
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