研究概要 |
アルファ2プラスミンインヒビター(以下α2PI)の先天性遺伝性欠損症の成因の一つとして、1アミノ酸(137番のグルタミン酸)の欠失がある。この1アミノ酸の欠失により、産生されたα2PIの細胞内輸送が障害され、血中に分泌されないため欠損症が生じることを既に報告した。この137番目のアミノ酸を置換したり、その周辺のアミノ酸を欠失させた場合、産生されたタンパクの細胞内輸送や分泌にどのような影響が及ぼされるかを検討した。137番のグルタミン酸に他のアミノ酸が置換するように、また、117,127,132,147,157,177番のアミノ酸がそれぞれ欠失するように、遺伝子変異を発現ベクターに導入しCOS7細胞にトランスフェクトした。48時間培養後、培養上清のα2PIを免疫学的に測定した。一方、培養後、放射活性標識メチオニンでパルスラベルし、時間を追って、細胞内および培養上清中のα2PIを免疫沈降後、SDS電気泳動、オートラジオグラフィーで測定した。137番の置換では、システインに置換した場合を除いては、著しい分泌の低下はみられなかった。127,132,137番のそれぞれのアミノ酸の欠失では、α2PIの分泌は正常α2PIのそれの10%ないし20%に低下していた。147番のアミノ酸欠失では低下は50%にとどまり、117,157,177番のそれぞれのアミノ酸欠失では、正常にくらべ有意の分泌低下はみられなかった。パルスラベルの実験結果は、タンパクの細胞内輸送が障害され、細胞内に停滞したタンパクが徐々に細胞内で崩壊されるため、分泌の低下が起きることを示した。これらの結果は、125付近から150付近の狭い領域がα2PIの細胞内輸送においてタンパク構造上重要な役割を演じていることを示している。
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