研究概要 |
染色体の相同的組換えはどの生物にも起こる現象であるが、真の生理機能については充分わかっていない。我々はこの組換えの意味や機構を知るため、組換えが他に較べよりよく起こる部位(ホットスポット)について研究を進めてきた。具体的には大腸菌RNaseH欠損変異株に複数のホットスポットを見出し解析してきた。その結果以下のことが判明した。(1)計8ケ所(HotA‐H)のホットスポット(Hot)のうち、7ケ所(HotA‐G)は複製終結領域に集中すること、(2)その内の3ケ所(Hot‐C)のHot活性は、終結反応(複製フォークの阻害反応)に依存すること、(3)少なくともHotAのHot活性には、さらにそのDNA上に既にミクロなホットスポットとしてしられているChi配列が必須であること、等である。既に知られているChi配列の極性,またChi配列を認識する酵素RecBCDのDNAへの侵入口としての2本鎖切断部位の必要性等を考慮して,HotA部位の活性化モデルを組立てた。そのモデルの基本は,終結点で阻止された複製フォークの接合点で2本鎖切断が起こることである。このことがRNaseH欠損ばかりでなく、野性株においても阻止された複製フォークが蓄積しさえすれば起こることを、終結点を染色体の新しい部位に挿入した株を調べることで証明できた。さらにその株の解析から、フォーク阻害によって起きた2本鎖切断を、相同的組換えシステムが効率よく修復することが判明し、相同的組換えの本来の機能の一つが、正常時に起こるフォーク阻害の修復にあるとするモデルに行き着いた。このモデルは、複製と組換えの関係を明らかにするばかりでなく、SOS誘導の初期反応、Chi配列の生理的機能、SOSmutagenesisの実体等、これまで不明であった諸現象を有機的に説明できるものである。
|