研究概要 |
重点領域研究の班員に選ばれて研究助成を頂き、当初の研究予定をほぼ達成することができた。関係各位に深謝するとともに、以下その成果を箇条書で記載する。 1.血管内皮細胞と平滑筋細胞の単独培養と共存培養に成功し、両者の細胞内Caイオン(〔Ca^<2+>〕_i)動態を同時観測することに成功した。即ち、内皮細胞の刺激物質としてATPを用いた時、両者の共存培養では、内皮細胞の〔Ca^<2+>〕_iの一過性上昇に約5秒ほど遅れて、隣接する血管平滑筋細胞の〔Ca^<2+>〕_iが一過性に減少した。このATPに対する反応にdown-regulation等の現象は認められなかった。共存培養の時に認められた〔Ca^<2+>〕_iの反応はATP刺激により内皮細胞からEDRFが生産され、隣接する血管平滑筋に作用するautocrineとparacrine作用の結果である事を各種EDRF遮断物質を用いて証明した。 2.特に今年度は動脈硬化巣に存在し、脂質の中で最も動脈硬化を来す作用の強いlysophosphatidylcholine(LPC)に注目して解析した結果、生理的に存在する範囲内でLPCは濃度依存性にEDRFの作用を抑制し、ATPによる血管平滑筋細胞の〔Ca^<2+>〕_i低下作用を減弱させ、その拡張機能を妨げる事を示した。しかしin situでNADPH diaphorase活性として測定したNOS活性にはLPC処理は全く影響しなかった。この結果は動脈硬化の一因として非常に重要な一石を投じる物と自負している。 3.またET_A,ET_B受容体がエンドセリン-1と-2を認識する部位を分子生物学的にキメラ遺伝子を設計し、COS細胞にtransfectionして検討して各エンドセリンの結合と〔Ca^<2+>〕_i測定実験から、受容体のIとIV,V,VI,VIIの膜貫通部分が認識部位である事を証明した。 以上の諸結果は3年間で19編の英文原著論文にまとめられた(裏面の発表論文一覧を参照)。今後はこれをin vivoの研究に発展させ、動脈硬化の病態解明と治療に応用する予定である。
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