研究概要 |
熱帯・亜熱帯における果樹の大害虫ミカンコミバエ・ウリミバエなどBactrocera属のミバエ類の雄成虫は,寄主植物とは全く無縁の特定の植物に強く誘引され,その植物組織を摂食する行動を示す.ミカンコミバエにおいてはメチルオイゲノール,ウリミバエではキュールアがその特異的な誘引因子として知られている.本年は,米国ハワイ州においてミカンコミバエを誘引する植物との相互作用およびその生態学的意義について解析を進める一方,沖縄本島においてウリミバエ誘引物質の行動・生理学的解析を行った. メチルオイゲノールを摂取した雄ミバエはその代謝物を直腸腺に蓄える.非摂食雄と比較すると交尾成功率が著しく高いことが判明し,代謝物の性フェロモンとしての役割が強く示唆された.メチルオイゲノールを生産するマメ科植物において,受粉前と受粉後の誘引成分の差異など植物組織学,生理学的な観点から化学分析し,「共進化」を裏付ける特異的相互関係を究明するための基礎的データを得た.メチルオイゲノールを含有しない数種のミバエ誘引植物よりフェニルプロパノイド関連物質を検索しその作用についても知見を得ることができた. ウリミバエの雄が直腸腺に蓄積するラズベリーケトンの消長を追跡し,配偶行動におけるフェロモンとしての役割について室内実験を実施した.また,同物質の雌への移行の可能性についても追跡を行ない,雄誘引成分の生理的機能について考察した. 一連の雄誘引物質の生理作用から,フェロモンとしてだけでなくアロモンとしての作用も示唆され,各種天敵を用いた生物検定よりこれを実証した.
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