研究概要 |
本研究は,好熱菌ATPaseのF_1およびV_1の個々のサブユニットの結晶化を行い,高分解能のX線構造解析によって原子レベルでの三次元構造を得ることを目的とする.本年度は主に,大量発現系が確立されている,好熱菌PS3のF_1で,触媒反応に直接関与すると考えられるβサブユニットを研究対象とし,まず,高純度に精製されたwild-typeおよび数種のmutantの結晶化条件を検索した.その結果,いくつかの条件で結晶が得られたが,とくに,wild-typeとY341L mutant(Tyr341→Leu)については,形状のきれいな単結晶が得られた.しかし,大きさが不十分であったため,シーディング法によって結晶を大きくすることを試みた.ミクロ・シーディング法とマクロ・シーディング法を段階的に併用する方法を開発することによって,Y341L mutantにおいてX線回折実験可能な大きさの結晶を得ることに成功した.しかし,wild-typeについては,同様にシーディング法を行ったにもかかわらず,結晶を回折実験可能な大きさに成長させることができなかった. βサブユニットY341L mutantの結晶について,実験室系の回転対陰極型X線発生装置ならびに高エネルギー物理学研究所放射光実験施設のシンクロトロン放射光を用いて,X線回折実験を行った.シンクロトロン放射光では3A分解能を越える反射が観測された.結晶は斜方晶系に属し,空間群I2_12_12_1(またはI222),単位格子の大きさは,a=232,b=66,c=80Aであることを決定できた.この結晶のシンクロトロン放射光を用いたnative回折データの測定,ならびに重原子同形置換法の検索を現在進めている. 一方,高度好熱菌Thermus thermophilusのV_1のαサブユニットについても(wild-typeおよび各種mutant),大量発現系の構築,精製,ならびに結晶化を進めている.
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