研究概要 |
グルタミン酸は,脳の代表的な興奮性伝達物質としてほとんど全ての領域で機能するが,その放出量をはるかに凌駕する放出が虚血負荷時に惹起される。我々のマイクロダイアリシスによる検索では,そのグルタミン酸の起源はアストログリア,ニューロン胞体,シナプスにあり,すでに報告されたトランスポータ蛋白の局在と機能,虚血時の逆方向輸送をほぼ裏付ける結果を得た。一方,この放出グルタミン酸は,non-NMDA型グルタミン酸受容体チャネルを介する脱分極とNMDA型受容体チャネルを介するカルシウム流入を誘発し,細胞内カルシウム貯蔵からの動員へと連結してニューロン障害の基礎が成立することも明らかとなった。この過程で顕著な現象として,虚血負荷によるNMDA型グルタミン酸受容体チャネルの持続的活性化がおこることが見出された。スナネズミに37℃脳温コントロール下,5分間の一過性前脳虚血を負荷した動物の4時間後に海馬スライスを採取し,マイクロフルオロメトリーを行った。灌流槽への25μM,NMDA投与後反応するCA1領域カルシウム上昇の程度は,虚血を負荷しない対照群に比べて著しく上昇することが認められた。これは,NMDA型グルタミン酸受容体チャネル蛋白の分子構造が,持続的な可塑的変化をおこすことを示唆するものであり,今後の分子生物学的分析がまたれるところである。これらの虚血応答は,ニューロンの最初期過程であり,これに続く事象としてDNAレベルでの応答が当然考えられる。カルシウム上昇に直結しうるものとして,転写制御因子AP1のDNA結合活性が,虚血脆弱な部位で大きく変化することの基礎的所見を得たので,今後はこの方向で検索を進めたい。
|