アルツハイマー病脳の変性神経細胞に出現するPHFを構成するタウ蛋白は高度のリン酸化を受けており、PHF形成機序との関連で注目されている。正常胎児脳には、PHFのタウ蛋白にきわめて類似したリン酸化状態を示すタウ蛋白(fetal tau)が多量に存在する。本年度はfetal tau、PHFタウに共通したリン酸化部位を認識する3種類のモノクローナル抗体を用いて幼若ラット脳を系統的に検索し、fetal tauの局在とリン酸化状態の差異、発達に伴う変化を検討した。fetal tauは出生期前後の脳で最も広範囲に分布し、軸索のみならず樹状突起にも局在していた。Thr231のリン酸化を認識する抗体M4はSer396を認識するC5、Ser202を認識するAT8に比してsomatodendritic compartmentを優位に染色した。強いリン酸化タウの染色性は生後7-10日まで残存したが、生後2週以降急速に減少し、4週齢以降はリン酸化状態の低い成人型の分布に変化した。またリン酸化を受けたfetal tauが樹状突起内でも微小管に結合した状態にあることを金コロイド免疫電顕で確認した。これらの結果から、胎児型リン酸化タウの過剰リン酸化は、従来示されているグリコーゲン合成酵素リン酸化酵素(GSK3)などのタウリン酸化酵素の分布と活性に相関している可能性が強く示唆された。本研究により、従来組織内・細胞内局在の明らかでなかった胎児型リン酸化タウの分布と発生段階における経時的変化が明確になり、その生理的意味付けに大きな示唆が与えられた。
|