研究概要 |
P-因子挿入法によりショウジョウバエの視覚系の変異体の分離を試み、strawberry(sty)遺伝子座(第3染色体・73A1-2)を同定した。得られた二つのallele(sty^<01>,sty^<02>)は,この領域周辺のdeficiency stockとの交配により,loss-of-function typeの表現型を示すと考えられた。ホモ接合体成虫は,複眼表面のmechanosensory bristleの重複やレンズの融合及び個眼の不整な配列等を伴うrough eye、各々の個眼内における光受容細胞の数の増加と位置の異常、視葉外層の層形成の異常、著しい生存率の低下,labial pulpやwingの変形などの多様な症状を呈し,これらはexcision実験の結果、P-因子の挿入によることが示された。更に、胎生期では胚帯短縮、頭部陥入の異常やantenno-maxillary complexにおける感覚子の増加,第3齢幼虫期では、眼・触覚原基のommatidial preclusterにおける神経細胞の増加やの光受容細胞の軸索の走行異常等が観察された。又、P-因子挿入部位を指標にしたsty遺伝子とcDNAの単離と構造決定の結果、sty遺伝子は分子量50kDのEGFモチーフを有する蛋白質をコードし、P-因子はこのcoding領域を分断していることが判明した。Hydropathy plotの結果sty遺伝子産物は、分泌性蛋白質であると予想された。以上のloss-of-function typeの表現型の解析結果とエンハンサー・トラップ法によるβ-galactosidaseの局在を指標とした発現パターンの解析や遺伝子産物の一次構造から、sty遺伝子産物は、分化した細胞が隣接した未分化細胞が神経細胞になるのを抑制する作用(側方抑制)による神経細胞、cone細胞、色素細胞の数と位置の調節を行い、更に恐らくは別の機構により神経細胞の軸索走行を規定し、神経系の分化過程・形態形成を制御する液性因子として働くと考えられた。トランスジェニック・flyの作成し、トランスジーンに関してホモ接合体に対して、2齢幼虫期以降に、heat pulseを与えることにより、sty遺伝子産物の熱誘導性の異所性強制発現を行い、複眼をはじめとする成虫の表現型を解析したところ、heat pulseによって、少なくとも複眼において神経細胞、cone細胞、色素細胞の数の減少が誘導されたことより、sty遺伝子産物が、神経細胞を含むsty産性細胞の周囲に存在する未分化細胞の分化を抑制していることが考えられた。
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