研究概要 |
トポグラフィックマッピングは大脳の感覚野と運動野に特徴的な構造であるが,この構造の自己組織化を記述する数理モデルが国内外でいくつか提案されているが,これら既存のモデルに共通した特徴は,学習神経場が静止した孤立局在興奮を持つという仮定である.神経場には孤立局在興奮を持つものと進行波状の興奮パタンを持つものがあるが,近年,培養中の網膜で進行波状の自発興奮パタンが発見された. 我々は2枚の興奮波を持つ神経場の間のトポグラフィックマッピング形成を示すことに成功した.このモデルは,トポグラフィックマッピング形成を興奮パタンどうしの空間位相同調という新しい観点から捉えることを出発点としている.空間位相同調の概念はそれ自体比較的新しいものであるが,このように神経回路網理論に導入されるのは本研究において初めてであり,この点も本研究の新しい点といえる.我々のモデルでは,2枚の神経場の各細胞は,層内の周り6個の細胞と興奮性の固定結合で結ばれ,不応期を持っている。このため一つの細胞を興奮させると,環状の興奮領域が広がっていく.層間結合の成長は,シナプス前競合,シナプス後競合,ロジスティック成長,ヘブ学習の四つの効果によって決定されると考えている.また,このモデルは興奮波という時空間パタンを積極的に利用しているため,トポグラフィックマッピング形成の可否が入力細胞層上に与えられる発火パタンの時空間的性質に依存している点が従来のモデルと本質的に異なっている.
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