研究概要 |
我々が運動を実行する際には、運動の結果期待される体各部位の固有感覚や触・圧覚などの体性感覚情報が重要な手がかりとなる。また、体性感覚は静止状態での受動的刺激によって起こるよりもむしろ、運動の結果起こる外界との相互作用によって引き起こされることが多い。従って、大脳皮質体性感覚野には能動的運動に伴って生ずる体性感覚情報の時空間パタンを検出するニューロン群が存在するものと予想される。 ニホンザルに手指(II,III指)を用いたボタン押し課題を行わせた。中心後回の体性感覚野手指領域(3a,3b,1,2,5/7野)からニューロン活動を慢性的に記録し、それらニューロンの受動的刺激に対する受容野特性と、運動課題遂行中の活動の時系列パタンとを比較した。実験終了後、記録部位は組織学的に同定した。すべての細胞構築学的領域で、皮膚や関節・深部に受容野を持つ大多数のニューロンはボタン押し運動によってそれらの受動的受容野が刺激されている期間にのみ発火した。しかし、頭部間溝前壁部の2〜5野にかけての領域で、受動的受容野特性とは一見矛盾する、運動遂行中に特有な活動パタンを示すニューロンが見いだされた。例えば、1)受動的刺激に対する興奮性受容野がありながら、運動遂行中はこの受容野に対する機械的刺激が与えられる以前に活動し、刺激が発生した後に活動が停止してしまうニューロンや、2)指先から肩に至る前肢に対する受動的な皮膚・関節・深部刺激には全く反応しないが、運動遂行中に活動するニューロンなどである。これらのニューロン活動は、遂行中の運動に特異的な反応様式を持つことによって、運動野との相互結合を通して運動の時空間パタンの認知と形成に寄与するものと考えられる。
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