研究概要 |
出芽酵母第6染色体の整列クローンバンクから,適度に重複したDNA断片を調製し,熱ショック,グルコース非存在下での培養,および増殖の定常期のストレス条件下で転写活性の変化する遺伝子の探索を行い,そのような遺伝子を多数同定した。そのうちVI-A,VI-B,VI-39と名付けた遺伝子について塩基配列を決定し,VI-Aについては転写開始点の決定も行った。この遺伝子はグルコース培地中での対数増殖期にはほとんど転写は見られないが,グルコース非存在下と増殖の定常期において強い転写活性を示す。VI-Aはゲノムあたり1コピーで,この遺伝子を破壊しても表現型の違いは見られず,生育には必須ではない。予想されるアミノ酸配列のホモロジー解析を行ったところ,アミノ酸の代謝に関与しているL-alanine-glyoxylate aminotransferase(AGT1)と類似していることが確認された。このことから,VI-Aもグルコース飢餓状態でのアミノ酸代謝に関わっているのではないかと思われる。ラットではAGT1のN末端とC末端にはそれぞれミトコンドリアとペルオキシソームへの輸送シグナル配列が存在し,実際に両方に局在していることがわかっているが,VI-A遺伝子の産物にはこのようなシグナルはない。一方VI-A遺伝子の上流の塩基配列を他の遺伝子と比較したが,既に知られているようなUASあるいはシス領域は存在しなかった。しかし上述したVI-Bの上流部,および定常期で転写量が増加するカタラーゼA遺伝子の上流部と類似性を示す短かい共通配列が存在していた。現在,この共通配列を含むVI-A上流部をlacZにつないで,異なる培養条件下でのβ-ガラクトシダーゼの活性の測定を行っている。
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