研究概要 |
細胞は熱や有機溶媒など様々なストレスにさらされたとき,そのストレスに対応するために熱ショック蛋白質(HSP;Heat Shock Protein)と呼ばれる特殊な蛋白質の一群を多量に生産する。この熱ショック蛋白質は通常でも存在し,各細胞内小器官に輸送される蛋白質の高次構造を調節したり,古くなった蛋白質の分解など細胞内活動において重要な役割を果している。これら熱ショック蛋白質の中の,in vitroでも蛋白質の立体構造・高次構造形成を助ける働きをもつ大腸菌のシャペロニンGroE(GroEL(14mer),GroES(7mer))の機能発現構造について,様々な酵素を“基質"として用いて詳細に調べた。 大腸菌由来の4量体酵素トリプトファナーゼ(分子量:21万),酵母由来の2量体酵素エノラーゼ(分子量:9万7千),Aspergillus oryzae由来の単量体酵素で分子内ジスルフィド結合を持つタカアミラーゼ(分子量:5万4千)等を塩酸グアニジンで変性させた後,希釈法によって再生反応を行い各酵素の活性回復率を調べた。その結果,いずれの場合も再生中間体はGroEと複合体を形成し,ATPの添加によって解離し活性構造を形成することが判明した。このことは,GroE分子は“基質"蛋白質の由来や種類,細胞内局在性,分子量,四次構造などによらず,かなり広範囲にわたって機能するものと考えられる。GroEはトリプトファナーゼの再生中間体と複合体を形成することによって不可逆的なアグリゲーションを抑え,再生収率を増加させていることが明らかになった。また,エノラーゼの再生反応を指標にしてGroEのヌクレオチド特異性を調べたところ,GroESが存在するとATPだけではなくADP,CTP,UTPによっても再生中間体は効率よくGroEから解離し,活性を回復することが明らかになった。ADPはGroELによって加水分解されないので,ATPの加水分解エネルギーを利用してGroEは機能しているのではなく,ヌクレオチドのGroELへの結合が重要であると思われる。ヌクレオチドがGroELに結合することにより,GroELのコンホメーションが変化し再生中間体がスムーズに解離し正しい立体構造が形成するものと考えられる。GroESはこのとき,ADP,CTP,UTPの結合によるGroELのコンホメーション変化をさらに強めるような役割をしているものと思われる。
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