研究概要 |
心筋細胞膜受容体を介するシグナル伝達は,三量体GTP結合蛋白質(Gタンパク)を介してエフェクター機能修飾に共役されている.今年度の成果の一つは,フェレット心室筋細胞におけるムスカリン(M_2)およびアデノシン(A_1)受容体刺激を介する抑制性調節機構の解明である.多くの哺乳類の心室筋細胞においては,M_2およびA_1受容体刺激は心室筋細胞収縮性にほとんど影響を与えない.一方,cyclic AMP蓄積を介して惹起される陽性変力作用は,これらの受容体刺激を介して顕著に抑制される(間接作用).ところがフェレット心室筋細胞においては,両受容体刺激は直接的に心室筋収縮力を顕著に抑制する.心室筋細胞において,M_2およびA_1受容体刺激が直接作用を惹起しない理由として,受容体,GタンパクまたはKイオンチャンネルレベルにおける調節機構の差違によるものと思われる. 本研究において,フェレットとラット心室筋細胞の比較により,(1)アデノシン受容体の親和性および受容体数には両種間に差違がない.(2)フェレット心室筋細胞のGoα量は、ラットの数倍多い.(3)心室筋細胞K_<ACh>チャネルの寡多が心房筋と心室筋における直接抑制作用の差違に反映されている可能性が高いと考えられているが,通常哺乳類心房筋細胞においてのみ観察されるK_<ACh>チャネルがフェレット心室筋細胞に存在し,そのチャネルのカイネティクスは,心房筋細胞のそれと差違がないことが明らかにされた. また,交感神経α_1-,エンドセリンおよびアンジオテンシン受容体刺激は,すべてGqタンパクを介してイノシトールリン脂質(PI)代謝促進に共役されており,PI代謝促進の調節意義が心筋細胞においても重要な課題となっている.これらの異なった受容体を介するPI代謝促進が心筋細胞シグナル伝達のステップにおいて,どのような調節を行なっているのかが検索された.情報伝達の過程におおける修飾は,必ずしも同一でないことを示唆する結果が得られている。
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