研究概要 |
胎盤型グルタチオン-S-トランスフェラーゼ遺伝子(GST-P)は、ラット肝化学発癌過程で特異的に発現するが、正常肝ではその発現はほとんど観察されない。そこで、その発現制御機構について研究し、転写を負に制御するサイレンサーの存在を明らかにしてきた。本研究においては、このサイレンサーに結合する蛋白質の機能を解析することにより、遺伝子を負に制御する機構を明らかにすることを目的とし以下のことを明らかにした。 1。サイレンサー部位には少なくとも三種の蛋白質(SF-A,B,C,Silencer Factor)が数箇所に結合することが明らかとなった。このうち、クローニングしたSF-Bは、転写活性化遺伝子であるC/EBPβ(=NF-IL6=LAP/LIP)と同一と思われた。C/EBPはファミリーを形成し、同一のエレメントに複数の蛋白質が結合する。そこで、これらの影響を検討したところ、SF-B結合部位にはC/EBPα,C/EBPδ,DBPの効果は小さくC/EBPβの効果が最も顕著であった。C/EBPβは機能の相反する二種の蛋白質LAP(活性化因子)とLIP(不活性化因子)より成るが、GST-Pサイレンサーにおいては特にLIPの果たす役割が大きかった。LIPの機能ドメインを解析したところ転写不活性化ドメインと思われる部位が見いだされた。LIPはこれまで転写活性化ドメインを欠き転写活性化因子と競合するだけと考えられてきたが、より積極的な作用をしていると推察された。これらの実験で用いた培養細胞は、主に本年度納入した炭酸ガス培養装置を使用した。 2。SF-Aについては、ほぼ精製を終了した。興味あることにα-フェトプロテイン、ホメオボックス、甲状腺刺激ホルモン等のプロモーターに、その結合配列がみいだされた。これらの結果はSF-Aが種々の遺伝子に働く一般的な転写抑制遺伝子であることを強く示唆しておりこれらとの関連性は今後の課題である。
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