研究概要 |
ラットβサブユニットの遺伝子上流域に存在するGATAGC配列は,血液系細胞の転写調節因子(GATA・DNA結合蛋白質)の認識配列[(A/T)GATA(A/G)]とよく似ており、同様のDNA結合部位を持った胃の核蛋白質がGATAGC配列に結合すると考えた。実際、ヒトβサブユニット遺伝子では、TATA配列の上流にGATA結合蛋白質の認識配列のみが存在していた。そこでGATA結合蛋白質のDNA結合部位に対応する塩基配列の一部を合成しプライマーとし、ラットの胃やブタの胃粘膜のcDNAを用いてPCRを行った。その結果、いままでに知られていない、3種のGATA結合蛋白質に対応する核酸配列を得ることができた。それらを、GATA-GT1,-GT2,-GT3(Gastrointestinal Tract)と命名した。これらの部分配列を用いてラットのcDNAライブラリーをスクリーニングし、GATA-GT1とGATA-GT2の全長をコードするクローンを得た。推定一次構造より、それらが全く新しい蛋白質であることを明らかにした。両者はともに胃粘膜に特異的に発現していた。また、大腸菌の菌体内で合成させたものを用いると、胃酸分泌酵素のαとβサブユニット遺伝子に共通の認識配列[(G/C)PuPu(G/C)NGAT(A/T)PuPy]に結合した。細胞分化にこれらのGATA結合蛋白質が果たす役割を明らかにするためには、培養細胞を用いることが必要になる。ヒトの胃癌細胞のなかにヒスタミンH2受容体(胃では壁細胞に存在)を発現しているものがあり、この細胞が同時にGATA-GT1も発現していることを明らかにした。H2受容体遺伝子をクローニングし、上流配列をルシフェラーゼ遺伝子上流に連結しこの細胞に導入すると、ルシフェラーゼ活性を検出できるようになった。
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