研究概要 |
本研究では胃炎・消化性潰瘍の原因として重要と考えられるHelicobacter pylori(HP)がどのように胃粘膜細胞に接着し、その接着にどのような物質が関与しているのかを明らかにするとともに、その接着に関与するHPの接着因子を解明しようとするものである。われわれは薄層クロマトグラム上で、胃粘膜の酸性糖脂質であるスルファチドとガングリオシドGM3へHPが特異的に結合することを見いだし報告しているが、ヒト消化管粘膜の系統的分析においても胃粘膜においてもスルファチドは多く含まれていることを明らかにするとともに、スルファチドに対するモノクローナル抗体による組織染色でこれが胃粘膜上皮細胞に局在していることを明らかにしえた。これらの結果は英文誌に一部発表(Lipids,28,737-742,1993)したが、組織染色については本年消化器病学会等で発表を予定している。一方HPへの組織での結合が薄層クロマトグラム上での糖脂質への結合と同一のものかどうか必ずしも明らかにされていない。それゆえ我々は胃癌由来細胞株を用いて、HPの細胞への接着機構を検討し、それを半定量しうるモデル系を作成し、その系を用いてHPの接着がどのような物質によって影響されるかを検討した。その結果ヘパリン、胃ムチンなどが結合を低下させることがあきらかにされた。この実験に用いたHP標準株は以前我々が用いていた患者からの分離株と異なり、GM3結合能がないことから、この接着には硫酸基がなんらかの関与していることが示唆された。なお接着因子自体のクローニングはなお継続中である。
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